なぜ学校や教育委員会だけでなく裁判所もいじめを認めてくれないのか?

いじめ問題において学校や教育委員会がいじめを認めないニュースをよく聞きますが、更に裁判所もいじめを認めない事例もある為、なぜいじめを認めない事が多いのか?いじめ被害者からすると信じられない出来事だと思えるでしょう。

しかし学校側の視点や、教育委員会側の視点も踏まえて見ると、いじめを認める難しさや、安易に認める事でどんな問題が生じるのか?いじめを認める上での課題が見えてきます。

その為、いじめを認める上で具体的にどんな事をしないといけないのか?ここでは実際に学校、教育委員会、ならびに裁判所でもいじめを認めてもらえなかった例を出し、いじめ認定のハードルについて分かりやすくストーリー形式で説明致します。

なぜ学校はいじめを認めないのか?

○○中学校長、長嶋は数週間前、当校に通う女子生徒、綾子さんが亡くなった問題で色々と動き回っていたのだが、昨日出された記事を見て目を丸くしていた。

○○中学に通う女子生徒が自宅のマンションから飛び降りた問題で、遺族は学校が実施したいじめアンケートを確認し、いじめらしき事が書かれている事を明らかにした。

しかし黒塗りにされているいじめ加害者の名前を公表してほしいと学校に頼んだところ、学校側は遺族の申し出を断り、いじめの事実があるにもかかわらず、家庭環境に問題があるのでは?といじめの事実を認めないと言ってきた、と遺族は語った。

これに対し、学校側は遺族は誤解していると回答しており、改めて、いじめの事実を認めない事を明らかにした。

この記事により学校には多数のクレームや説明責任を求める電話相次ぎ、その対応に追われた。そしてこれは外部だけでなく、内部、つまり教師達も「なぜいじめを認めないのですか?」と説明を求められた。その為、長嶋校長は急遽、臨時集会を開き、学校の先生、ならびに教育委員会のメンバー柴田を含め、経緯を説明する事にした。

「皆が思うところはあると思うが、私自身、いじめを認めるべきではないと思っている。ただこれは私個人で決める事ではなく、ここに集まってもらった皆で決める事だと思う。だからこれから私の考えが正しいかどうか、みんなの意見を聞かせてほしい」

と言って、集会の壁にプロジェクターで映し出された記事に書かれていたいじめアンケートが表示された。そしてそこには

  • Aさんが亡くなった生徒の名前を間違えていて、『もう何度言ったら分かるの!』と、綾子ちゃんが怒っていたのを見ました。友達だと思っていたのに名前を間違えるなんて信じられないと思いました。
  • Aさんが一方的に綾子ちゃんの事を「最低」「信じられない」「もう絶交」と言っていて、綾子ちゃんはそれをただ涙目になりながら聞いていたので可哀そうだと思いました。
  • 綾子ちゃんは将来「弁護士になりたい」と言っていたのですが、Aさんは「綾子ちゃんには無理だよ」と言っていたので、人の夢を否定するなんてどうかしていると思いました。

「他にもいじめらしき文言があったが、上記が一番具体的で調査の裏が取れ、いじめの事実を確認出来た。だから当初、私はこれが亡くなった原因とされるいじめなのでは?と担任の山口先生に確認してみたのだが、先生の話によると、

・Aさんは名前を何度も間違えたと言っているが実際は2回程度で、どうも綾子ちゃんはつい最近、両親が離婚しており、名字が変わってしまっていた。だから旧姓でつい言ってしまい、その際に『もう何度言ったら分かるの!』と怒っていたようだ。

・「最低」「信じられない」「もう絶交」と言っていていたが、Aさんに聞いたところ、どうやらAさんが好きな男子生徒の事を綾子ちゃんがバラしてしまったようで、それで怒っていたとの事。ただ綾子ちゃんの生前の言い分によると母親が勝手に自分のスマホの中を見て、Aさんがその男子生徒の事が好きだと知り、それを娘に黙ってママ友に話してしまったのがきっかけだとの事だ。

・また最後の「綾子ちゃんには無理だよ」という弁護士の夢を否定した理由についてだが、綾子ちゃんはどうやらパティシエに本当ななりたかったらしく、母親が「そんな安定していない職業なんてやめなさい。弁護士の方が食べていけるわよ」と自分の夢を否定したのは母親の方だった。そして本音を知っているAさんはそれに対し『(自分の本当の気持ちに嘘をついて弁護士を目指すなんて)綾子ちゃんには無理だよ」と親切心で言ったようだ。

と、ここまで聞くと、集会に集まった先生達はお互いの顔を見合わせ、Aさんが綾子ちゃんをいじめていたと思っていたが、実際は親が離婚し、そして母親が人の秘密を勝手にバラしたり、人の夢を勝手に決めている家庭環境に問題があり、いじめで亡くなったとは言い難いのでは?という雰囲気になっていた。

「その為、いじめらしき事は書かれている事は事実なのだが、表面的な内容が多く、どちらかと言えばいじめで亡くなったというのも怪しい状態だと私個人は思っている。さてここに集まってくれた先生達はこの話を聞いてどう思う?私はいじめの事実を隠蔽していると思うか?」

「・・・いいえ、どちらかと言えば亡くなった生徒の母親の過干渉が原因で、それを苦に亡くなったのでは?と思うのですが、そのAさんが嘘をついている可能性はないのでしょうか?」

「・・・最もな質問なのだが、実は私自身、綾子ちゃんとAさんの仲の良さを知っており、いじめ加害者と被害者というより、心を許しあえる友達だと見ている。そして綾子ちゃんが最近名字が変わった事、そして最初はパティシエと書かれていたのに、家に帰ってから将来の夢が弁護士に変わった事、そして好意を寄せている男子生徒の情報をどの生徒が知っているのか?Aさんに聞いたところ、○○君と答えており、確認したところ、○○君のお母さんが綾子ちゃんのお母さんから聞いたと、証言してくれた。Aさんの言っている事は本当だと見ている」

「・・・ならアンケートに書かれていたのはいじめでなく、第三者が勝手にいじめだと思い込んで書いた内容なので、別のいじめがあって、綾子ちゃんの母親はそれを見て、いじめを隠蔽していると思っているのでしょうか?」

「いいや、実はいじめアンケートを見に綾子ちゃんの母親が来校した際、この上記の3つのいじめが亡くなった原因なのでは?と言ってきて、

『この黒塗りになっている加害者生徒の名前を教えてください!』

と言ってきたのだ」

この瞬間、ここに集まった教師全員がゾッとした。

「もう気づいたかもしれないが、そう、つまり綾子ちゃんの母親は・・・無関係だと思われるAさんがいじめ加害者だと信じており、このままでは無実の生徒が訴えられる事になる。だから私としてはどうしてもいじめの事実を認めず、学校全体で真相を調査し、本当に亡くなった原因を見つけたいと思っている。

だから皆には悪いが、遺族の方々、いや世間から隠蔽だと疑われても、この生徒を守る事に協力してくれないか?」

こうして長嶋校長は皆の前で頭を下げた。ただ長嶋が頭を下げる以前に、先生として生徒を守るのは当然。そんな雰囲気が既に出ており、ここにいる教師一同が生徒を守る事を既に決めていた。

いじめを認めない学校に抱く遺族の心境例

―――何でいじめを認めてくれないの?

私は洋子。娘が自宅のマンションから飛び降りた話を聞いて、急いで駆けつけてみたが、医者からは『既に即死で手遅れだった』と言われ悲しんだ。

しかしその後、ママ友から娘がいじめにあっていたのでは?と聞かされ、試しに事前のいじめアンケートを見せてほしいと学校に頼んだところ、娘が数多くの生徒から無視、そして特定の生徒からいじめを受けていた内容が書かれていた。

「娘がこんなにも苦しんでいたなんて」と、どうして娘は私に言ってくれなかったんだろうと思った。ただ一方でなぜ学校は娘がいじめを受けていたのに、それを遺族に報告せず、あまつさえ「いじめではないのでは?」と言ってきたのか?

いじめをなかった事にしようとしている?、とそんな気がした。

学校っていじめがあると責任問題に発展するから、うやむやにしようとしてくるとどこかの記事で読んだ事がある。

いじめアンケートにいじめが書かれているのに、学校は「加害者生徒に聞き込みをしたところ、あなたがその生徒の秘密を話したのが原因だと聞きました」と言ってきた。

そんなの知らないわよ!って言うか何でいじめ加害者の言い分を信じるの?いじめ加害者なんだから嘘をついて責任逃れしようとしてくるのが当たり前なのに、この担任の先生や校長先生はその辺の事が頭が回らないのかしら。

挙句の果て、私が離婚した事や子供の夢を私がパティシエから弁護士に変えた事を言ってきて、まるで私の教育に問題があって亡くなったのでは?と言ってきた。信じられない。

親として子供の幸せを考えるのは当たり前。だから安定している弁護士に目指させるのは当然じゃない!なのにそれが原因だとか、名前を何度も間違えたのは親が離婚して名字を変えたから?と言っているけど、本当は娘が嫌がるあだ名で呼ばれていて、その加害者生徒が離婚した事を利用して、誤魔化そうとしているって何で気づかないの?

と、学校側は加害者生徒を守ろうとしている、そんな風に感じた。

だから私は冷静になって「じゃあ、娘は何で亡くなったのですか?」と質問してみたところ、二人は答えられなかった。まだろくに調べていないのにいじめ以外で亡くなったと決めつけている。

このいじめアンケートは子供達が勇気をもって書いてくれた、娘の為に書いてくれた言葉なのよ。それを疑うなんてどうかしている。

あ、でも確かこのいじめアンケートって記名式で、親の同意書がないと提出出来ないってママ友が言っていたわ。なら――。

洋子はスマホを取り出し、学校に電話した。

いじめを認めない教育委員会の例

「まずい事になりましたね」

と、教育委員会のメンバーの一人である柴田は、今日出された記事を見て絶句していた。

○○中学校、無記名のいじめアンケートの実施を断っていた。

○○中学に通っていた女子生徒がいじめで亡くなっていたかもしれない問題で遺族の母親が学校に対し、無記名のいじめアンケートを実施してほしいと頼んでいた事が分かった。

遺族の母親によると前回のいじめアンケートは記名式で、書いた生徒の保護者の同意書がないと提出出来ない仕組みになっていた。

「これでは自分が書いたと知られてしまい、怖くて真実を書かない生徒が出てしまう」と遺族の母親が学校に無記名での実施を頼んでいた。

しかし学校側は信憑性が欠ける上、調査に支障が出るとして遺族の申し出を断っていた。

これに対し、遺族側は「学校が遺族に寄り添った対応をしてくれない。前回のいじめアンケートの実施から半年もかかっているのに未だにいじめの事実を認めず、事件を風化させて隠蔽しようとしているのでは?」と学校に対する不信感を露わにした。

取材班はこの遺族の言い分に対し、学校に問い合わせたところ、「調査に時間がかかり、遺族の気持ちに答えていない事は申し訳ないと思っております。しかし無記名のアンケートは記名式より更に調査が難航する為、断った次第です」と答えた。

「この記事について事実確認したところ、母親から無記名アンケートの実施を頼まれた事、そして長嶋校長がそれを断り、その後、この記事が出たとの事です。

そして今、中学校に対し『何でいじめを認めない』『遺族を置き去りにするな!』『隠蔽するな!』などクレームが相次いでいるとの事です。また中にはYoutuberなどが学校に訪問し、いじめ加害者が誰なのか探っているとの報告も受けております」

「そうか」

と、柴田の報告に対し、そう答えるのは教育委員会の中心人物とされる塩原だ。

勿論、ここには他の教育委員会のメンバーがいるが「なぜ学校は無記名のアンケートを実施しないんだ。これでは隠蔽だと疑われても仕方がない」と直ぐ無記名のアンケートを実施するべきだ、と声が上がっていた。しかし

「無記名のアンケート実施をしないよう学校に頼んだのは私だ」

と塩原が答えた。

なぜ?と他のメンバーが疑問視していたが、塩原はその疑問に答える。

「今、柴田に学校の状況を逐一確認しているのだが、今、在校生徒達は世間から『誰がいじめ加害者なんだ?どんないじめがあったんだ!?』とYoutuberや周辺の人達から質問攻めにあっている。そして中には『何で答えない?もしかしていじめ加害者か?』と自分達をいじめ加害者と決めつけ、ネットにアップしようとする輩も現れ、自分達がいじめ加害者としてネット上に晒されると怯えている報告を受けている。

このいじめ事件の世間的認知度が上がるにつれ、こういう輩が増えており、クラスでは『お前が犯人だろ!』とか『こんないじめがあったとか』生徒同士罪の擦り付け合いや、遺族の母親に近寄ってありもしないいじめをでっち上げて誘導しようとしているなど様々な噂が出ている。

つまり今、無記名のいじめアンケートを実施すると真実よりも、自分が疑われないよう別の人に成りすましていじめアンケートを書く可能性があると見ている」

・・・そんな馬鹿な。と声を漏らす教育委員会のメンバーもいたが、塩原は構わず続ける。

「試しに過去、この手と似た事件に遭遇した同僚がいたので相談してみた。

この同僚も遺族がいじめだと決めつけていて『息子がいじめられていたのにお前ら何で助けなかった?』とクラス全員の前で言ってしまい、生徒の間では『あの親を敵に回すといじめ加害者にされて訴えられる』と警戒されてしまった。

その結果、無記名のいじめアンケートには自分達から注目を逸らそうと更に恐ろしいいじめを書いて、当時、加害者として有力視されていた生徒の名前を書いて『私がいじめていました。本当に申し訳ございません』と自首する旨のアンケートが5枚も出てきたと言っていた」

嘘だろ・・・と誰かが声を漏らす。

「つまり無記名のアンケートは生徒達が他人に成りすましてアンケートを書く事が出来るから、あの遺族を見る限り、恐らくその内容を鵜呑みにし、あらぬ罪を無実の生徒に課してくるリスクがある」

教育委員会のメンバーの人達はこの瞬間、ゾッとした。

「このように無記名のいじめアンケートは冤罪やありもしないいじめをでっち上げるリスクがある事から、学校にはその手のアンケートを実施をしないよう忠告した」

と塩原は無記名のいじめアンケートの実施を止めた経緯を説明した。

「もう生徒達はこのいじめ事件が世間から注目を集める度に身の安全からありもしない嘘や噂が出てしまっている。だからこれ以上、生徒達を危険に晒さないよう目立たぬ行動を心掛けるのだ」

と、このいじめ事件が世間的に注目されればされるほど嘘の情報が蔓延するので、目立たぬようにする事が教育委員会の1つの方針として掲げられた。

これに対し、ここにいる教育委員会のメンバーはほぼ全員納得したのだが、もう1つ無視出来ない議題があった。

「塩原さん、遺族側の代理人弁護士から第三者委員会を設置していじめの調査をしてほしいと連絡がありました」

そう、遺族の母親が弁護士を雇い、第三者委員会の設置を依頼してきたのだ。

「第三者委員会。知っている人はいるかもしれないが、要は我々教育委員会や学校の人達とは無関係のメンバーで構成し、そのメンバーで今回のいじめ案件を調査してほしいと遺族から打診された。

いじめ防止対策推進法によりこの申し出に対し、我々には拒否権はない。だからこれからこの第三者委員会のメンバーを誰にするか決めようじゃないか」

いじめを認めない教育委員会に抱く遺族の心境例

「はぁ~、教育委員会もいじめを隠蔽するわけ?」

娘をいじめで失ったと思っている洋子は、弁護士を雇い、第三者委員会の設置を教育委員会に申し出た。

その結果、教育委員会が用意したメンバーの中に私の許可なしに家庭環境について調べているメンバーがいた事を弁護士から聞かされた。

おまけに他のメンバーに教育委員会の親戚にあたる人が含まれていた事も知り、教育委員会は自分達と繋がりのあるメンバーを第三者委員会に入れていた事が分かった。

「本来なら公平に判断すべきところを、まさか自分達にとって都合の良い連中を用意してくるなんて信じられない」と私が憤慨した。

これに対し、学校側の言い分によると『いじめ以外に亡くなった例を調べないと公平性に欠ける』『親戚と言っても遠い親戚でほぼ他人です。この件は知らなかった』と言い訳してきて、選任方法には問題ないと言ってきた。

見苦しい。

だから私は弁護士の提案でその2人のメンバーを外してもらい、そして新しいメンバーには弁護士が用意した2名が入ってくれる事になった。

何でもその新規メンバーは過去にいじめでお子さんを亡くしており、遺族の気持ちを理解出来、今回の学校の隠蔽体質を改善したいとの事で協力を申し出てくれたようだ。

しかし学校側は『これではいじめで亡くなった信じているメンバーだけで構成される』とか言ってきて自分達の事を棚に上げて何という言い草だと思い、全て弁護士さんに任せた。

そして新しく参加したメンバーの計らいでなんと無記名のいじめアンケートを実施する事になった。

本当にこの弁護士さんに任せてよかった。事実、この弁護士さんに頼んでから、以下のような不祥事が明らかになった。

  • 当案件のいじめを学校側は教育委員会に重大案件として報告していなかった
  • 学校側が保護者に対し、遺族側に原因があると発言していた事が発覚
  • いじめアンケートを遺族の許可を取らずシュレッダーで処分していた
  • 遺族の個人情報を故意に外部に流出していた

ふざけんな!

だから私は不祥事が明らかになる度に、メディアを通して以下の記事を出した。

遺族の話によると『学校は娘がいじめられていたにもかかわらず、重大案件と報告せず、投資て理解出来ない』といじめを認めようとしない体質を問題視した。これに対し学校は『慎重になりすぎて事の判断を誤った』と遺族に謝罪した。

無記名のいじめアンケートを実施する上で学校側は保護者に対し、遺族の家庭環境に問題があるかのような発言をしていた事が分かった。これに対し、遺族側は『いじめがあるにもかかわらず、学校の勝手な憶測で混乱を招いた。この責任は大きい』と発言しており、学校側は『不適切な対応だった』と遺族に対し謝罪をした。

学校は保護者に伝える前にいじめが書かれていたとされるアンケートをシュレッダーにかけていた事が分かった。学校関係者の話によると「調査に支障をきたす内容が書かれていた為」と処分した旨を教育委員会に伝えていた事が分かった。これに対し遺族側は「なぜ隠した!アンケートを処分した人に厳罰を求む!」と強く批判。学校側は「担当教諭を厳重注意し、再発防止に努める」と遺族に謝罪した。

第三者委員会が調査している途中の調査結果を外部に持ち出して複数のメディアに流していた事が判明した。その中には遺族の家庭環境が細かく記載されており、受け取ったメディアは『中身を見て、途中から遺族の個人情報が書かれているのが分かり、読むのを放棄した。遺族の方々には申し訳ない』と語った。この情報流出に対し遺族は『前回、アンケートを勝手に処分するなど学校の情報管理には失望しています。これ以上、遺族の気持ちを踏みにじるのはやめてほしい』と訴えた。これに対し、学校側は『再発防止を徹底する』と遺族に謝罪した。

定期的にこの手の記事を出したおかげで、この事件を知る人達が増え、事件は風化されず、応援してくれる人が増えていった。

嬉しい事に中には『いじめ加害者を逃げ得されないようこちらも調べてみます』と、独自で調査してくれてYoutubeで進捗を伝えてくれる頼もしい味方も増えていった。

ちなみに学校や教育委員会は世間からバッシングされるようになった為か『生徒達が不安がるから記事を出すのはやめてほしい』と言ってきた。

こいつら保身の為なら生徒達を盾にしてくるのか?と卑劣な手に唖然とした。だから法律に詳しい弁護士に全て任せた。

その後、無記名のいじめアンケートが実施され、結果、

Aさんって人が『お前は生きる価値がない、くたばれ』と毎日綾子ちゃんに言っていました。綾子ちゃんは『やめて』と何度も言っていたのにAさんは笑いながら『綾子ちゃんがいつか消えていなくなるのを楽しみにしている』と言っており、助けられなかった事を申し訳なく思っています。

と書いた生徒の名前はなかったが、新たないじめが発覚し、他にも

私がやりました。綾子ちゃんって本当にいじめられていると泣きだして、それが楽しくてたまりませんでした。どうか悪気はなかったんです。だから許してください

とこれは実名入りで書かれており、黒塗りされる前のアンケートを見た弁護士の話によるとAさんの名前だったとの事。

まさか加害者自ら自首をしてくるなんて思ってもみなかったけど、これで大きな証拠になる。他にも

綾子ちゃんは『いじめの事、お母さんには言わないで、心配するから』と言っていたのを聞きました。

と匿名で書かれていたとか

『学校の先生が目の前でいじめられていたのに”母子家庭で育った子供って偏っているから教えるのが面倒なのよね”とか言っていじめを放置していました』

など先生がいじめに加担していたという驚きのアンケートも出てきた。

「こんないじめを娘は受けていたの・・・」と想像を絶するいじめがあった事に、娘がどれだけ苦しいいじめを受けていたのか、気づいてあげられなかった自分を恨んだ。

そしてなぜ学校や教育委員会がいじめの事実を認めないのか分かった。

「これだけのいじめがあれば当然、学校は責任問題を気にするでしょうね。特に学校の先生もいじめに加担していたのであれば教育委員会も隠蔽に協力するのも納得。もう許さない」

時は流れ、遂に第三者委員会の調査が終了し、結果「いじめで主要因で亡くなった」と調査結果を出たのだ。

「やった・・・、やっといじめが認められた」

そして今までAさんと英語に置き換えていた女性生徒の名前も分かり、「こいつか・・・」と、いじめ加害者の正体が娘と一緒に遊んだ事がある生徒だと分かった。

『いじめの事、お母さんには言わないで、心配するから』と書かれていたアンケートを思い出す。バカね、私はあなたの母親なのよ、娘が苦しんでいるのなら少しでも相談してほしかった。

ただ私に心配かけまいと娘のやさしさを叱りたくない。私が怒りをぶつけるべき相手は友達のふりをして娘の命を奪ったこの子と学校よ。

いじめが目の前にあったのにそれを放置した。本当なら生徒を助けるのが先生の役目なのに、逆にいじめに加担するとはこんな人間を教師として働かせてはいけない。

ちなみに学校側からは『子供たちの証言は表面的なもので、裏を取らなければ危険です。誰かをいじめの犯人として名指しする事は、その子に無実の罪を背負わせ、デジタルタトゥーとして一生苦しめる事になりかねません。慎重な判断を』などと言ってきて、何でこの期に及んでいじめ加害者を守ろうとするのか理解出来ない。

しかしもういじめ加害者の名前は知れた。

娘が亡くなってから5年。本当なら娘は高校生で高校生活を謳歌しているはずなのに加害者は卒業し、何の責任も負わせずにこの学校はいじめをなかった事にした。そしてそんな被害者遺族を置き去りにして学校に何のお咎めなしで終わらせた教育委員会も許せない。

弁護士から「いじめも認められましたし、民事訴訟をしましょう。これで学校のいじめ隠蔽体質を変え、いじめ被害者が泣き寝入りしない体制に変えましょう」と言ってくれた。

もう私はこの言葉に涙を浮かべた。

そう、私は学校の勝手な理屈で泣き寝入りをするところだった。娘が亡くなった真相が知りたいだけなのに学校や教育委員会はその気持ちを無視し、いじめ加害者を守り、いじめが認められるまでの5年間、遺族の気持ちを蔑ろにした。この学校と教育委員会を変えないといけない。

私は弁護士の言う通り、いじめ加害者と市教委に対し、民事訴訟をすると決めた。

学校や教育委員会だけでなく裁判でもいじめを認めない形になる例

「これ完全に調査が学校内に偏っていますよね?」

裁判が始まるとこの裁判の為に駆り出された小橋、中橋、大橋の3名は裁判官として提出された証拠を慎重に精査していた。

遺族側の主張は娘が学校でいじめを受け、その結果、自ら命を絶ったというものだった。しかし学校側は一貫していじめを認めず、責任逃れではなく、無実かもしれない生徒を守るために加害者寄りの対応をせざる得なかったと述べていた。

だが調査資料を見る限り、学校内の出来事しか調べていないし、家庭環境やスマホの中を見ていない関係で偏りがあると小橋は指摘し、いじめが原因で亡くなったと出た調査結果に疑問を感じていた。

「いじめ防止対策推進法を確認してみたのですが、いじめの定義を見てみますと『この法律において「いじめ」とは(中略)当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものを言う』と書かれています。

そして調査結果の内容を見る限り、この遺族はアンケートに書かれている内容が真実だと言っているだけで、この手のいじめ行為を実際に確認したり、また録画したりなどの証拠を集めていませんでした。

つまり当該行為は確認出来ていない為、学校の言う『いじめの事実は確認出来なかった』という主張は正しく、遺族がそれを隠蔽と主張しているだけで間違っていると言えます。

私が見る限り、この遺族は『いじめが確認出来ない=いじめがあるのに認めない』と決めつけているだけで学校はいじめ防止対策推進法にのっとり正しく対処していると言えます」

と小橋は述べ、遺族の法律に関する認識の違いが誤った主張を招いていると結論付けた。

また中橋は過去のいじめ裁判の判例を調べており、いじめが亡くなった原因とされる大津市のいじめ事件を調べた結果、中橋も家庭環境について調べる必要があると指摘した。

「大津市のいじめ事件を調べてみたのですが、亡くなったお子さんって亡くなる直前、親の財布からお金を取った事がバレて反省文を書かされたり、親が離婚して離れ離れになると聞かされたり、更に発達障害かもと言われたり、していたようなんです。

これは加害者とされる生徒が反証した時の言い分ですが、これが裁判で認められている関係上、大津市でも家庭環境を調べた上でいじめ認定されているので、家庭環境にどのくらい亡くなる原因があったのか調べた上で、いじめ加害者に下す罰を決めた方が良いです」

と、中橋が発表し、いじめのみで亡くなったと思っていた小橋はこの大津市のいじめ事件の家庭環境を知って驚いている。

そして口頭弁論においては学校側はいじめ以外の可能性を模索したが、遺族にその事を伝えても『遺族のせいにしようとしている』と疑われ、遺族を説得させる事に失敗したと主張した。

また教育委員会は第三者委員会をいじめ以外の視点で調査出来るよう家庭環境やスマホ分析の経験者を呼んだが、遺族の意向でそのメンバーが外され、いじめを認める結果になったのはメンバー構成に偏りが生じたからだと主張した。

それを確かめる為、証人尋問では外されたメンバーを呼び、教育委員会が言っている事が本当で、残りのメンバーで調査する事はいじめで亡くなったと信じているメンバーで調査する事になり、偏りが生まれるのでは?と心配していた事を語った。

これを聞いて、小橋、中橋、大橋は学校や教育委員会は保身の為に隠蔽したのではなく、真実が分からないせいで遺族や世間に対し、納得いく説明が出来なかったと結論付けた。

そして第三者委員会の調査結果も遺族の介入により公正な調査が出来ず、偏った調査結果が出たと結論付け、裁判官の3人は学校側の言い分を支持する方針で進めていった。

いじめを一部だけ認めるのではなく、完全に認めない結果になる理由とは?

以上のように遺族の主張は偏りがあるのは理解したが、一方でいじめで亡くなった可能性は捨てきれない為、小橋、中橋、大橋はどのように判決を下すか悩んでいた。

学校が主張するように冤罪事件の可能性がある、しかし一方で遺族の言い分を棄却すると遺族の気持ちを置き去りにした判決になる。

だから小橋と中橋は遺族、学校双方の主張を取り入れていじめで亡くなった可能性があると指摘し、加害者への賠償責務は取り消し、学校側に少額の賠償を求める、という遺族側の言い分を少し認めた喧嘩両成敗の判決を提案した。

「こうする事でいじめを認めてほしい遺族の希望にも配慮しつつ、学校側の無実かもしれない加害者生徒への社会的バッシングも最小限に抑える事が出来るでしょう。まぁ、双方納得せず、特に遺族は判決を不服として上告してくる可能性がありますが、これが我々に出来る最大限の譲歩でしょう」

と小橋が言った時だった。

「いや、遺族の主張は棄却すべきだ」

裁判官である大橋は言った。

「確かにお前達の言う通り、両者の言い分を少し認める引き分け案も今までの慣例からして良い判断と思えるかもしれないが、それだとこの後、大きな支障が出る。

君達はもしこの判決で引き分け判決が出れば、その後、この手の案件が出てきた場合、どうなってしまうのか?考えた事があるか?私なりに色々と考えた結果、子供のいじめ問題以上に虐待や冤罪事件が多発すると思っている。

この案件ではいじめ問題に焦点を当てているかもしれないが、いじめと言うのは親によって誘発させる事が出来る。実際、今回のケースでも親が友達の秘密を他人に漏らした事でいじめが起こっている。

私自身、子供が亡くなった判例を数多く見てきたが、いじめで亡くなったとされる例はほんの一握りで大抵は家庭環境が原因で起こっている。

例えば親が過剰教育で深夜遅くまで子供を勉強させ、翌日の授業で居眠りばかりしてしまい、素行が悪い人間だと周囲から叩かれ、いじめが発生する事例をよく聞く。

更に虐待する親の場合、子供は栄養失調で真面な判断が出来なかったり、運動能力にも支障が出て、ここでも周囲から煙たがられて仲間外れなどのいじめに発展するケースだってある。

モンスターペアレントの場合、子供を盾に自分の要求を通す親もいる為、そのせいで「贔屓だ」「ずるい」など当該生徒と関わりたくないと孤立を生むケースだってよく聞く。

私はこんな身勝手な親によって自ら命を絶つ子供達の事例を数多く見てきた。なのに当の親はそれに気づかず『私のせいだと言うのか!?』と言って、家庭環境の調査を拒否する輩がいる事も多く見てきた。

そしてこの案件では家庭環境を調べず、学校でいじめがあったからいじめ加害者生徒に罰を与えてほしいという内容になっている。

これでは親の干渉が背景にあっても、一番身近にいた子供にだけ責任を押し付ける判決になってしまい、更生を促す司法において、そんな子供に全ての責任を押し付けている判決など到底受け入れられるわけがない。

だから私自身、いじめ問題においては育て親の身の潔白の証明も外してはならないと思っている。

もしこれで引き分け判決を良しとすれば、今後、この判例により、多くのダメな親が子供を追い込んで命を落としても、そのツケを別の子供に押し付けて終わるケースが増えてしまう。

今回の案件で驚いたが、学校は遺族の言い分が通りやすい脆弱性がある事を私は知った。もしこの判決で今回だけでなく、過去の事例の再調査が実施されれば、親の干渉が原因だったのに、当時の子供に問題があるかのような結論を学校や教育委員会が出してもおかしくない。それは本当に社会の為と言えるか?

・・・と色々と引き分け判決により社会的な悪影響や更生を促す司法の立場について語ったが、少なからず子供が自ら命を絶つほど苦しんでいた事に親は気づかなかったのか?そこも調べるべきだ」

なるほど2人の裁判官は大橋の話を聞いて納得する。

「だから遺族の心情も配慮すべきだが、家庭環境を見ずに罪を課すなど、保護者責任の観点から到底受け入れる事は出来ない。その為、この案件は引き分けではなく、遺族側の言い分を棄却した判決を私は下すべきだと思っている」

小橋と中橋はその後、結局、改めて審査に入ったが、結局、家庭環境についてあまり調べていない調査のせいで、公正な判断が出来ないとして”遺族側の言い分を退ける”そんな判決に向けての話し合いに変わっていた。

いじめを認められるようになる為にはどうするべきなのか?

「原告側の請求を棄却する」

法廷にこの言葉が響いた時、長嶋校長は安堵の声を漏らす。一方で遺族側の母親は「なんで?なんで棄却なの?これじゃあ、いじめ被害にあっても被害者は泣き寝入りで、学校や教育委員会が隠蔽しても良いみたいになるじゃないの!そんなのあって良いわけがない!」など泣きながら叫んでいた。

長嶋自身、このやり方は生徒達を守る為とは言え、亡くなった生徒、そして遺族を見捨てる事になる為、色んな衝突があったとはいえ、複雑な思いを抱く。

「もっとここまでこじれず、遺族を納得させる方法はなかったのか?」

遺族の人達はその後、判決の結果に納得出来ず上告すると宣言。

長嶋はその後、教育委員会に出向き、裁判の結果を教育委員会の柴田に伝え、今回のような遺族とのすれ違いを防ぐ為、改めて何か良い方法はないか二人で話し合う事になった。

いじめを認めてもらう為には家庭環境などを調べる必要がある?

「今回の判決を見る限り、遺族が言う通り、早い段階で結論を出す必要があります。その為、もし今回のように遺族がいじめを認めてもらおうとしてきた場合、どのように説得すべきなのかが課題となりますね」

「今回の判決でいじめがあったからと言って、それが亡くなった原因として認められなかったというケースは遺族を説得する上で良い材料になります。親の行動や家庭の状況が原因でいじめが発生するケースも多いですから」

と言って、柴田は会議室のホワイトボードに親の行動や家庭環境などが原因で子供がいじめられる例を一覧として以下のように書きだした。

  • 友達から借りていたゲームを断捨離と言って捨てられる
  • 子供をYoutubeやSNSに出して、クラスメートからからかわれる
  • 門限が早いせいで友達作りに支障が出て、仲間外れにされる
  • 親が宗教に入っており、ママ友を誘う
  • 友達の秘密の会話をスマホで見られ、口外してしまう
  • アリバイの無かった奴が犯人だと言って謝らされる
  • ママ友のお子さんと仲良くするよう強要する
  • 親が離婚して離れ離れになり、名字が変わる
  • キラキラネーム
  • 先生にクレームばかり入れて学校に行きづらい
  • 勉強など優秀な子と毎日比べられる

「・・・このように親の過干渉や過剰教育、ならびに毒親などでいじめが発生するので、この手の行動が無いかどうかを遺族に話して、説得するのが1つの突破口になるのかな?と思っています」

「う~ん、確かにそれも1つの手ですが、今回の遺族のように自分の非を認めない場合はどうします?その手の親は必ずいますし、主観ですが、子供を追い詰める人って自分の非を認めない親が結構いると思うんですよ」

その為、今度は長嶋校長がホワイトボードに書き出し、親子関係に問題がなくても子供が自ら命を絶つ例を以下のように一覧としてまとめた。

  • 自分のペットが亡くなり、ペットロスとなる
  • 大好きなアイドルが亡くなって後を追ってしまう
  • 受験やテストなどに失敗してしまい、将来に悲観して亡くなる
  • SNSで自分の裸の画像を送ってしまい、脅迫に耐えられずに亡くなる
  • 好きな人に恋人がいる事を知り、失恋
  • 犯罪被害に遭い、立ち直れないショック
  • 自然災害や事故によるトラウマ
  • 転校先に馴染めず、孤独感を感じる

「このようにこの例に当てはまる、当てはまらないと証明しないと民事裁判で不利になるかもしれませんと話して、家庭環境を調べるように促すと言うのはどうでしょうか?」

などと長嶋と柴田は遺族に家庭環境を調べる重要性を如何に伝え、如何にいじめを認める為のスタンスを取れば良いのか話し合った。結果、

「ダメだ・・・どうやっても遺族を説得出来る方法が見いだせない」

長嶋は既に音を上げた。そしてそれは柴田も同様で

「ええ、いくら家庭環境を調べると言っても我々は警察じゃないから家庭環境を調べるスキルがない。

例えばスマホの中を調べる場合、ITスキルが必要だし、病気などが原因だと精神科医などのその手の専門化の知識が求められます。

また自分の非を認めない遺族が相手の場合、我々は捜査権などないので、家宅捜査など出来ませんし、結局、調査しても原因が分からず、保護者からは『いじめを隠蔽しようとしている』と思われてしまうのがオチなのかなと思いましたね」

「我々としても本当にいじめで亡くなり、そしてそのいじめ加害者を正しく見つけられれば良いのですが、今回のケースだと警察、IT、医療などの専門機関と連携が必要ですし、調査だけで1年以上かかってしまいます。

そうなると加害者はもう既に卒業してしまいますし、加害者に罰を与える事が出来ず、遺族を怒らせる結果になるので、亡くなった原因を解明するって学校と教育委員会が対応出来る範疇を超えていますよね?」

と早期解決を望む長嶋と柴田だったが、結局、答えを見出す事が出来ず、また同じような事が起これば、遺族が民事訴訟し判決が出るまで頑張る、という約10年モノ間、遺族のあの猛攻に耐えていかないといけないのか?頭を抱えた。

いじめアンケートの内容は裏を取らないと、いじめを認めてくれない?

「どうして、どうしていじめが認められないのよ?」

洋子は、裁判で、自分たちの言い分が棄却されたことに対し、当然、洋子は上告するつもりだったが、今後どのように対策をとれば良いのか、遺族の代理人弁護士である。杉山と一緒に自宅で作戦会議を練っていた。

「そもそも、どうして裁判では、いじめが認められなかったのよ?」

「今回の判決内容を見直したのですが、いじめ対策防止推進法ではいじめの定義として”当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの”として書かれているのですが、いじめアンケートにいじめ被害が書かれていたとしても、その当該行為を確認出来なければ、いじめとして認められないと判決では述べています。

つまりその”当該行為”、そのいじめを確認出来ないから学校は『いじめの事実が確認出来なかった』と言っていたので、法律的に正しく隠蔽ではない、と判断され、学校や教育委員会に落ち度はないと判断されてしまったのです」

「え~、それって遺族は学校内で起きた証拠を持っていないのよ!それだといじめだと認められないって事になっていじめの真相を知る事なんて無理に決まっているじゃない」

「まぁ、学校側が証拠を持っているのは事実ですが、ですので遺族への公開義務がある記名式のいじめアンケートを見て、そしていじめの事実を書いた生徒を複数、証人として呼んでこちらの言い分を通そうとしました」

だが杉山はここで苦虫を噛む。というのも杉山自身、当初はいじめアンケートを書いてくれた生徒達を呼べばいじめが認められると思っていたのに、いざ第三者委員会で対象生徒に聞き込みをしてくると『覚えていない』と皆言ってきて、事実確認出来なかったと言ってくるのは想定外だった。

どうも学校の先生が事前にその生徒に聞き取り調査をしていたみたいだが『Aさんと綾子ちゃん、どっちが最初に悪口を言ったの?』と聞いて全員分からないと答えたそうだ。

要は最初に手を出したのが誰かのか分からないせいで、Aさんは綾子ちゃんをいじめていたのか?それともいじめられて反撃したのか?判断出来ず、加害者が誰なのか判断出来なかった。これではいじめの事実認定が出来ない。

おまけにその手の争いで誰が勝ったのかも分からないせいで、誰が精神的苦痛を受けたのか分からない、という結論となり、いじめ防止対策推進法における精神的苦痛を受けた生徒はどちらなのか判断出来ず、いじめアンケートの情報に信憑性がない、と思わせる結果になってしまった。

つまりいじめアンケートに書かれていた内容、全てが断片的な情報でどちらが加害者で、どちらが被害者なのか決め手が欠けていた。

おまけにこの遺族の母親が『あんた!娘がいじめを受けていたのに何で黙って見ていたの!』といじめを訴えてきた生徒を注意したせいで『このままではいじめ加害者にされる』と思われたらしく、その後の調査でも生徒の殆どが『分からない』『アンケートに書いていた内容は勘違いだった』と全生徒が協力を拒んでしまった。

だから俺は新たな証人を得る為に無記名のアンケートの実施をしようとしたら、見る限り、他人に罪を擦り付ける為に書いたと思われる嘘ばかりの情報で、当然、裏を取る事が出来ず、逆にこれが生徒達の証言に信憑性がないとして第三者委員会の『いじめが原因で亡くなった』とされる調査結果も否定された。

―――裏が取れない。

これだといくらいじめと思わしき情報が出ても裁判では信用してもらえない。いじめを認めてもらう為にも俺達、原告側は是が非でもいじめ亡くなったと思われる証拠を用意しないといけない。

知らず知らずのうちにいじめを認めてもらえない事をする遺族の例

「ねぇ、控訴審だっけ?次の裁判では私達の言い分を受けて入れ貰う為には一体どうすれば良いの?」

「・・・いじめを認めさせるのに必要な要素として『希死念慮』、要はお子さんが命を投げ捨てる程、深刻に悩んでいた事を訴えるのが重要だと考えています。

しかし一審の判決ではアンケート内容や第三者委員会の調査にも信憑性が乏しいと判断された以上、いじめで亡くなったと認めてもらう為には新しくいじめが原因と思われる法的根拠を用意しなければなりません」

「法的根拠って、具体的にどんな?」

「例えば以下のようなモノをまとめました」

と杉山弁護士は持っていた紙を洋子に見せて、子供が命を捨て去る前にする症状として証拠能力のある一覧を提示してくれた。

  • 書き込みの多い日記 – 子供が日々の出来事や感情を記録していた日記。いじめについて書かれていたり、生きるのが苦しいと思わせる表現が含まれている場合。
  • SNSやメッセージのスクリーンショット – いじめに関するやり取りが記録されているSNSやメッセージの履歴。
  • 手紙やメモ – 子供が書き残した手紙やメモで、いじめに関する内容や生きづらさについて書かれているもの。
  • 破れた衣服や持ち物 – 学校でいじめられた証拠として、破れた制服や壊れた持ち物。
  • 絵や作品 – 子供が描いた絵や作った作品で、暗いテーマや悲しい表現が含まれているもの。
  • 食欲不振の記録 – 食事を取らなくなった、食べ物を残すようになった事を示す家庭内の記録。
  • 睡眠障害の記録 – 夜眠れない、頻繁に目を覚ますなどの睡眠障害を示す記録。
  • 医療記録 – いじめにより受けたストレスや身体的症状で受診した医療機関の診断書や治療記録。
  • 音声録音 – 家庭内での相談やいじめについて話している音声の録音。
  • パソコンやスマホの検索履歴 – 亡くなり方に関する情報を頻繁に検索していた履歴。

「これに関する何かを母親であるあなたは何か知りませんか?」

いきなりそんな事を言われても・・・と言ってきたが、母親にはこれを提出しないと娘がいじめで亡くなったと証明されないと言って、杉山は母親と一緒に娘の部屋に行き、証拠になりそうなモノはないか探す事にした。

「うちの娘は日記なんて書かないし、スマホは私が毎日チェックしていますけど、あの子、中々、自分の気持ちを表に出さないので、それらしきメッセージもありません。病気もないので通院など治療も行っていません。だからどう考えてもいじめを苦に亡くなったとしか考えられないのです」

などと言っているのだが、杉山の心境としては

(そんなスマホを毎日チェックする親であれば当然、友達との本音のやり取りなんてスマホに残さないだろうし、なら日記なんて書いたら絶対覗かれると思って書くわけがない。

この洋子って女は子供にどれだけ過干渉なのか自分でも気づいていない。

裁判でも『いじめが書かれていたのに学校が認めない』と主張して、それに対し学校側は『いじめの裏を取ろうとしたけど、相手生徒がそれを否定してきたので、いじめが確認出来なかった』と主張してきたのに対し『ほら、見て下さい!学校は何かしら理由をつけていじめを隠蔽しようとして来ています!』など言ってきた。

あれは裁判官に対し、この遺族は学校の言い分を隠蔽としか捉えず、法的根拠や事実確認において必要な段取りを全く心得ていない、と情報リテラシーの低さを疑っただろう。実際、俺もそう思った。

この女は自分の言動がどれだけいじめ認定を妨げているのか理解していない。

だから家庭環境において問題が無かったどうか話そうとしているのに、この洋子って女は『あんたも学校の連中みたいに私が原因って言うの!』と言ってきて、口をきいてくれなくなった。

だから俺は振り向いてもらう為に学校の不祥事を上げていき『これで相手の社会的信用を落としましょう』という作戦を提案して、ようやく信頼を取り戻した。

とまぁ、色々と遺族に思う事はあるが、弁護を引き受けた以上、裁判で勝つ方法を見つけないといけない)

「・・・洋子さん、まぁ、いじめで苦しんでいるとか、楽になる方法とかなど、その手の言葉を文字が書かれているモノがあるのが望ましいですが、それ以外にも涙の痕とか、何かしら娘さんが感情的に壊したモノでも良いので、それ点について何か心当たりはないでしょうか?」

「あ!、これなんてどうかしら」

と言って、娘の引き出しから、六法全書を取り出した。するとそこには破れた箇所があり、更にいくつかのページに涙がポタポタ落ちてついた痕のようなモノがあった。

「これって今、弁護士さんが言った感情的になって壊したモノにならないからしら。そう、いじめによるストレスが原因で六法全書にあたった、って裁判で言えば勝てるかしら?」

と洋子は言っていたが、破いているのが六法全書しかない為、これだと弁護士の勉強が辛くて破いた!と思われ、いじめが原因と見られないのでは?と杉山は証拠としては弱すぎると思った。

「まぁ、確かにそれも1つの手ですが、それ以外にも沢山あれば更に証拠能力は上がります。そもそも六法全書だけって言うのが気になりますね。これに感情をぶつけたいと思える理由って何かしらの背景ってご存じでしょうか?」

「確か六法全書を破り捨ているのを私が偶々目撃して、理由を娘に聞いたら、学校で『弁護士になるなんて無理だよ』って言われて、それで感情的になって破り捨てたって言ってたかしら」

「・・・ちなみになぜ涙の痕があるのか、知っていますか?」

「いえ、あの子、離婚した父親の影響でパティシエになろうとしていたのよ。でも私は『パティシエだと離婚した父さんみたいに不幸になっちゃうよ』と言って、弁護士になるよう約束したんです。学校では夢を否定されて、そしてお父さんの事を思い出して、辛い事の連続だったんでしょう。だから六法全書に涙の痕がついているんじゃないかな?って思うの」

この瞬間、杉山は第三者委員会でメンバーから外された人が調べていた家庭環境について思い出す。

確かそれは離婚した父親の事だった。そして調べたところによるとこの父親はパティシエで自分の店を持っており、しかしコロナの影響で経営不振になり、離婚した、と認識している。

そして店を立て直す事が出来ず、父はその店で首を・・・とその人の最後を聞いた。

「・・・ちなみに娘さんにお父さんが既に亡くなっている事、伝えたんですか?」

「え?いやね・・・そんなの伝えるわけないでしょう。ただでさえお父さんっ子だったから離婚の際、お父さんと離れるのが嫌がったし、もし亡くなっているなんて知られたら『お父さんを支える為に弁護士になるんだ』って気合入っていたのに、水を差しちゃうじゃない」

などと言ってきた。

・・・お前、さっき『パティシエだと離婚した父さんみたいに不幸になっちゃうよ』って言わなかったか?そんな言い方をすれば当然、娘さん、父さんに何かあったのでは?と心配するだろ。

そういえば娘さんが亡くなったのって、離婚して名字が変わってそんな月日経っていないよな?って事は大好きな父と離れ離れになって、親戚の誰かが家に連絡し、たまたま電話を取った娘さんが父親の訃報を知ってもおかしくない。

「嘘をついた事は申し訳ないけど、これも娘の為。いつか分かってくれると信じていたんですけど」

と、言って母親は急に娘の事を思い出したのか泣き出した。

この親は本当に心の底から娘の為に頑張っているのは事実だろう。

ただ子供の為・・・もうこのセリフ、何度聞いたかな。俺や他の弁護士が原告側で負けてしまう要因として、原告側の主張が途中で問題視される点がある。例えば今回のような子供を失った親の場合

  • 息子は毎日10時間勉強していたのにそれが無駄になった・・・
  • お兄ちゃんと同じ遺伝子を持っているのだから弟も優秀なはずだと信じて・・・
  • あんたの絵なんて誰も見たくないと思うわよと説得したのですが・・・
  • こんなに私が頑張っているのに途中から言う事を聞いてくれなくなりました
  • 毎日何をしたのか?報告し、子供が道を踏み外さないよう注意していた
  • 何でこんなダメな子に育ったのかしら?と泣きました
  • あなたはもっと出来る筈。期待を裏切らないで、と鼓舞しました

など、過度な期待、優秀な人間との比較、不定的な意見しか言わない、親の言う事を聞かせるようにする、過度なプレッシャー、人格否定など、考えれば数多くあり、この言動が1つ1つが裁判を不利にしていく。

―――心理的虐待があったんじゃないかって?

そして加害行為は認められず、逆に親に問題があった判決になり、その時の言い訳として『子供の為だった』と親はよく言ってくる。

娘の為・・・と今、この母親は言っていたが、話を聞く限り、勝手に子供の幸せを決めつけ、将来の目標を押し付け、更には嘘をついて自分の希望を叶えようとしてくる。教育虐待の傾向が見られる。

いじめを認めてもらう。その為に杉山はアンケートの内容や学校の不祥事などを軸に入れ、遺族の言動を極力表に出さないようにしてきた。だがもうやる気を失っていた。

「ええ、そうですね。その六法全書で勝負しましょう」

この家庭環境を裁判で出さないといけない状態になった以上、もう勝てる見込みは低い。

もう杉山は控訴審で逆転する事よりもこの手の親が評価されない方が良いのでは?と思うようになり、敗訴した場合に備えてのプランを無意識のうちに考えるようになっていた。

控訴審でもいじめを認めない判決になったその後

時は経ち、控訴審の口頭弁論も終わり、そして数か月の時を経て、判決の時が来た。そして

「原告側の請求を棄却する」

と、一審判決と同じ、原告側の完全敗訴が決定した。そしてその後、以下のような記事が出た。

「いじめを認めた第三者委員会の調査は無駄」と遺族側が主張

この判決後、記者団の取材に対し、原告側の杉山弁護士は会見を開き

「なぜいじめを認めない結果になったのか理解出来ない。最初から結果ありきの判決で、学校や教育委員会に誘導されたとしか思えない」と話した。

遺族の母親は

「いじめの存在を否定され、裁判所に必死の思いで助けを求めたのに、それを裏切られた結果になりました。いじめを認めた第三者委員会の調査は無駄と司法では認めたのです」と述べた。

これに対し学校側は

「遺族に寄り添おうと頑張ってきましたが、力不足で多大なご迷惑をかけてしまった。いじめ問題はいじめの認定が難しく、今後、同じような事が起きないよう再発防止に努めたい」と取材班の質問に答えた。

この結果に対し、法律に詳しい専門家に話をうかがったところ、

「いじめ問題において難しいのはいじめの事実認定。今回の判決では学校の調査で明らかになったいじめに対し、学校、ならびに裁判において事実確認を証明出来ず、遺族の言い分が否定された結果になっている。今後同じ事が無いようにするには、遺族側がいじめで亡くなったとされる証拠の確保出来るようにするが重要。

その為、学校には監視カメラなどを設置し、いじめの記録が物理的に残るようにし、いじめが発覚した際、直ぐ調査し、関係者から詳細な情報を記録に残すなど体制を整える必要がある」といじめの事実認定を記録に残す事が課題とアドバイスした。

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